日本陸水学会・会長を退任するにあたって

今般、2021年12月31日をもって第16代日本陸水学会の会長を退任することとなりました。これまでの2期・4年間、村上哲生・前幹事長と幹事会の皆様、および朴虎東・現幹事長と幹事会の皆様だけでなく、学会の各種委員会の皆様には、我々の学会の円滑かつ健全な運営のために貴重なご協力を賜りましたこと、心より御礼申し上げます。また、私の大変拙い学会運営について、忍耐強く見守ってくださった学会員皆様のご厚情に、心より感謝申し上げます。

私が会長を務めさせていただいた間、最も辛くかつ判断に迷ったのは、コロナ禍における大会開催の是非でした。我が国におけるコロナ禍が顕在化したのは、2020年2月上旬あたりからかと記憶しています。その後、同年3月上旬には全国の小中高校および特別支援学校が全国一斉臨時休業となり、教育関係だけでなく社会のさまざまな事業が大混乱していました。この過程で、我が国のみならず、世界的に事業のオンライン化が急速に進みました。私は大学教員ですが、大学では卒業式や入学式をどうするか、授業はどうするかなど、感染拡大予防対策、インフラ整備や制度設計、各教員はオンライン対応として授業資料の作成などを急ピッチで進めなければなりませんでした。私事で恐縮ですが、私はセンター長でもあるため、私の所属するセンターに子供一時預かり所を設置したり、国や地元自治体のコロナ対策の変更に合わせた当センターのコロナ対策の変更に毎回対応したりと、目まぐるしく変化する状況への対応に追われておりました(現在も追われております)。このように社会の現役世代がこれまでに経験したことの無い事態をどう乗り切るかで煩忙を極め始めていた2020年4月、当時は東京でのコロナの状況が我が国では最も深刻でした。この年の大会は東京農工大学および周辺協力機関の皆様がお世話下さることになっていたのですが、コロナ禍がいつ収束するのか見通せないこと、および皆様の本務や生活が少しでも円滑に回ることをまずは優先すべきことを考え、大会実行委員会と私を含む幹事会で議論して、その年の大会は延期することと決めました。私は、大会延期によって皆様の研究発表の場を奪ってしまったことについて、心よりお詫び申し上げます。あの当時、オンラインでの会議開催の是非については世界的な議論があり、私としては大会開催の現実性と安全性の確保に得心が持てませんでした。その後、同年12月26日に学会総会を開催するまで、幹事会と何度もオンライン会議を開催して学会運営をどうするか議論を継続しました。私が特に気を付けたのは、学会運営を担ってくださっている幹事会の皆様に過度な負担が掛からないことです。私は、今般のコロナ禍は収束までに数年かかるかもしれないと考え、その間に学会執行部が疲弊して運営継続できなくなる事態は避けなければならないと考えていました。しかしその結果、学会員の皆様の中から「陸水学会は何をしているのだ!」とのご批判を受けることともなり、皆様の信頼を損ねる事態を招きました。この事態に至ったのは、上記の私の判断によるものであり、ひとえに私の責任です。2020年12月の総会に4時間という長い時間をかけたのは、皆様からのご意見を少しでも多く頂こうと考えたからです。

その後、2021年9月には東京農工大学および協力機関の皆様、具体的には楊宗興・大会会長および梅澤有・大会実行委員長をはじめとする大会実行委員会の皆様の多大なるご尽力のおかげで、第85回オンライン大会が極めて盛況かつ成功に開催されました。2年にわたって大会の準備を用意周到に進めて下さった皆様に、改めて心から御礼申し上げます。

私は、この4年間、学会の会長として皆様に十分奉仕させていただいたかどうか、自信が持てずにおります。私が現在にまで至るコロナ禍で最も気を配ったのは、この長丁場である戦いにおいて学会執行部が疲労困憊しないこと、いかに無理なく学会運営を継続するかでした。私の会長時代、学会の幹事会メンバーの多くの方々の所属は大学でした。実は、授業や実習のオンライン化には、膨大な資料の準備が必要であり、そのために多大な時間と労力がかかります。大きく変化する本務に対応しながら、日々の私生活での変化への対応もあり、その上での学会業務の遂行となると、これは容易ならざる事態です。私は、学会をお世話くださる皆様が、まずは無理なく、できれば楽しく充実してお仕事をしてくださるためにはどうすれば良いかを考えました。結果的に、私が何かご依頼差し上げる前に、幹事会メンバーが事前に、自主的にかつ積極的に動いてくださいました。前幹事会および現幹事会の皆様には、大いに助けていただき、誠にありがとうございました。

重ね重ね、学会員の皆様におかれましては、私の大変拙い学会運営について忍耐強く見守って下さり、誠にありがとうございました。と同時に、私の学会運営が至らぬ点ばかりであったこと、心よりお詫び申し上げます。

陸水学は、基礎学問的要素が強い一方、実際の社会・環境問題にも直面する応用的かつ実学的側面も持ち合わせて対応しており、人類の生存に直接関わる極めて重要な学問分野です。私は、今後は一会員として、日本陸水学会の全ての学会員が陸水学に誇りを持ち、高いモチベーションで優れた水準の諸活動を行えるよう、学会としての環境と雰囲気創りに微力ながらも貢献できればと思います。現在、陸水学に限らず全ての学問分野について、学術雑誌のオープンアクセス化など、学会運営に大きな影響を与えうる事案が顕在化しています。我々は、占部城太郎・新会長の下、全会員が一丸となって日本陸水学会を継続しつつ、次の世代のための新しい活気に満ちた学会創りに邁進しなければなりません。今後とも、日本陸水学会の発展のために、共に頑張りましょう。この4年間、本当にお世話になり、誠にありがとうございました。

2021年12月27日
中野伸一