学会長新年挨拶

日本陸水学会会員の皆さま謹んで新春のご挨拶を申し上げます。さて、本年は、国内外の様々な局面において大きな変動が予感される年になりそうです。私たち陸水学を志す者も、それぞれに真摯に現実と向きあって責任ある対応を行う必要がありそうです。当面の大きな出来事としては、学会事務局の交代があります。中野伸一幹事長以下関西に本部を置く事務局は、2013年1月をもって楊宗興新幹事長が率いる関東本部に引き継がれます。中野幹事長および各幹事諸氏によるこれまでの献身的な貢献に対して心より感謝したいと思います。ありがとうございました。併せて、新事務局幹事の皆様、今後ともよろしくお願いします。さて、2013年は、日本とスペインが交流を開始してから400周年にあたるのだそうです。といいますのも、仙台藩主伊達政宗が支倉常長をスペインおよびローマに派遣したのが1613年だからです。これは徳川家康の許可のもとに行われたので、初めての公式使節団だったのです。現在、日本とスペインでは様々なイベントが企画されていますが、日本陸水学会もイベリア陸水学会(スペインとポルトガル)と共同で、学生や若手研究者の交流訪問を行う予定です。獲得できる予算によって規模は変わりますが、現在の予定では両国からそれぞれ5名を選抜し、一か月程度相手国研究機関に滞在して現地学生と共同研究をしてもらおうと考えています。詳しい情報については後日お知らせしますが、仙台に所縁のある話ですので、東北大学の占部城太郎英文誌編集委員長に幹事役をお願いしています。計画が具体化したら飯泉佳子国際幹事と協力して進めていただく予定です。

また、本年8月には、ハンガリー国の首都ブダペストで国際陸水学会(SIL)の総会が開催されます。3年に一度の会議ですのでぜひご参加ください。特に、日本―スペイン交流400周年事業に参加したいと思う若者にとっては、SILへの出席が有利に働くのではないでしょうか。要旨の締め切りは2月28日です。ぜひhttp://www.sil2013.hu/のウェブサイトを訪問してください。

一方、日本学術会議、日本地球惑星科学連合、自然史学会連合などから様々な形で協力依頼や参加要請を受けています。これは、我が国の学術領域を再構築し、国際競争力の向上を目指すという狙いが底辺にあるものと思われます。日本陸水学会としては、可能な限りおつきあいしていきたいと考えておりますが、基本的には『win-win』が判断の基準になろうかと思っております。濱田浩美学術幹事、よろしくお願いします。ただ、大規模な会議や新しい専門誌の発刊、大規模プロジェクトの推進などは、あくまでも手段であって目的ではないことを忘れてはいけません。日本陸水学会は小さな学会ですが、80年を越える歴史のある学術団体です。自らが拠って立つ基盤(identity)を愚直に貫く(consistency)ことが、学問において最も大切なことであることも忘れてはいけません。
また、学会の社会貢献や社会正義の問題も避けて通れなくなってきています。これに関しては西廣淳環境幹事および吉田丈人・相子伸之両広報幹事の貢献を期待しています。とくに陸水学は、フィールドをベースにする学問です。そこには人間の利害関係や確執がある一方で、峻厳な自然が対峙しています。雑音もあれば妨害や中傷もあります。冒険もあれば発見や感動もあります。しかしながら会員の皆さまには、できる限り『フラットな目線』を忘れないでいただきたいと思います。このことは、『justice』の基本であり、公正さを見失わない探究や議論こそが、学問の王道であると思います。この道を踏み違えないために、岩熊前会長からの申し送りである学会倫理規定を整備したいと考えています。ただ、道徳的な倫理と言うよりも『環境倫理』という枠組みで少し広く議論してみようと思っています。このような共通の定規を作った上で、個別の案件の議論を行うことが大切かと思っています。

最後に、学会のビジネスモデルについて述べます。会員数の減少に伴って、学会の予算運用は大変厳しくなってきています。このままでは近々に、英文誌の継続的な発刊もできなくなるかもしれません。今の規模を維持し、少しでも発展させるためには『入るを量りて、以て出ずるを為す』しかありません。新事務局には、経費の無駄削減を再確認していただくとともに、会員の増強と収入の増加に取り組んでいただきたいと思っています。この点を木庭啓介庶務幹事と小寺浩二会計幹事にお願いします。とくに大会の運営につきましては、他学会の事例も参考にしながら、会員数の少ない地域でも大会開催が可能なように知恵を絞っていただきたいと思っています。そのためには、藤井智康委員長を代表とする将来計画委員会の皆様の協力が不可欠です。また、それ以上に大切なのは、会員全員の積極的な参加です。9月に龍谷大学で開催される本年の大会では、このモデルに沿った取り組みを試行していただくよう遊磨正秀大会委員長にお願いしています。そして、陸水学における学術レベルの向上を計り、若手研究者の新たな挑戦を応援したいと考えています。

以上、長くなりましたが、皆さまにとって2013年がよい一年になりますように、そして我が国の陸水学がますます発展しますようにと祈念して、筆をおきます。

2013年1月吉日
日本陸水学会会長 熊谷道夫